「ほんと、恋愛ってどうしてこうもめんどくせえんだよ……」

 髪をグシャグシャにかき乱し、ぼやいた時だった。

 ピコピコピコ……

 呑気な電子音が耳元で鳴り響いた。

「誰だよ、こんな時間に……」

 ブツブツ言いながら携帯を手に取り、発信元を確認したら――そのまま硬直してしまった。

「マジか……」

 あんまり考え込んでいたから相手も何かを感じ取ったのか。
 いや、ただの偶然だろうが。

 朋也は躊躇った。
 しかし、無視することも出来ず、深呼吸をしてから通話に切り替えて本体を耳に押し当てた。

「――もしもし?」

『ごめん高沢君。――もしかして寝てた?』

 電話の相手は遠慮がちに訊ねてくる。

 朋也は内心慌てつつ、「いや」と答えた。

「さっきまで風呂行ってたから。ちょっと出るのが遅くなった」

『えっ、ごめん! やっぱり邪魔しちゃったね……』

「いや、ほんと大丈夫だから」

『――ほんとに?』

「うん」

 朋也は答えながら、上半身を起こした。

「それよりどうしたの、こんな時間に電話なんて?」

『ああうん。ちょっと声を聴きたくなって』

 朋也の心臓が跳ね上がった。
 もしかしたら、涼香は深い意味で言ったわけではないかもしれないのに。