「お前の気持ちは分かってる。だから、俺に口出しする権利がないってのも理解してる。けどな、今日だけはあえて言うぞ? お前、自分が好きな女性に他の男の話をされて気分がいいか?」

「そんなの、兄貴に言われるまでもねえよ……」

「だろ? だったら紫織に相談される立場を朋也に置き換えて、朋也に相談する立場を紫織に置き換えてみろ。それなら分かりやすくないか?」

 宏樹が出した例に、朋也は黙り込むしかなかった。
 鈍いから、などと宏樹に言い放ってしまったが、本当は気付かないふりをしていたのかもしれない。
 涼香の、自分に対する想いに。

 だが、涼香の気持ちを理解しても、それに応えることは出来ない。
 たとえ、誓子に積極的なアピールをされていなかったとしても、応じられないという気持ちに変化はなかっただろう。

「俺、どうしたらいい……?」

 戸惑うことしか出来ない朋也は、兄に縋るしかなかった。
 こういう時ばかり頼るのは都合が良過ぎると自覚はしていても、自ら答えを導き出すことも出来ない。

 宏樹は相変わらず片肘を着いた姿勢のまま、冷や酒をゆっくりと喉に流し込む。
 コップの中を空にし、静かにテーブルにそれを戻してから、再び朋也に視線を向けた。