「ああ、俺の話はどうでもいい。さっきも言っただろ? 今日はお前の相談がメインだ」

 宏樹が真っ直ぐな視線を朋也に注いでくる。
 アルコールが入っていい感じになっているとはいえ、やはり、あんまりジッと見つめられるのも正直なところ困る。

「――急に、『帰る』って走り出してしまった……」

「ん? 話が全然見えねえけど……?」

 朋也は意を決して、涼香と飲みに出かけた時のことを話した。

 宏樹は時おり酒をちびちび飲んでは、小さく頷く仕草を見せる。

「つまりあれか、朋也に積極的にアピールしてきた同僚のことを話したら、紫織の友達の態度が急変した、と?」

「まあ、そうなるの、かな……?」

 一気に話して、急激に喉の渇きを覚えた。
 朋也はコップのビールを飲みきり、瓶に残っていたそれも全部コップに注いで一気に呷ってしまった。

 宏樹がすかさず、従業員を掴まえてビールの追加を頼む。

「しっかしまあ、お前も罪な男だねえ」

 それまで真剣に朋也の話に耳を傾けていた宏樹が、茶化すような言い回しをしてきた。

 酔っ払っていても、朋也はそれを聞き流さなかった。眉をひそめながら宏樹を睨む。

「どういう意味だよ、それ?」

「お前、本気で気付いてないの?」

「は? 気付くとか気付かないとか意味分かんねえし?」

「やれやれ……」

 溜め息を吐きながら首を何度も横に振っている。