「私は男女問わず嫌われ者だからね。どう思われてようが気にしないわ」

「――すみません……」

「謝る必要もないわよ」

 夕純はビールで口を湿らせ、訥々と語り始めた。

「謝んなきゃなんないのは私の方なんだし。ちょっと強引に誘って断りづらかったと思う。でも、山辺さんとふたりで飲みたかったっていうのはほんと。山辺さんって、他の女子と違って相手によって態度をコロコロ変えることがないでしょ? そういうトコ、私は凄く好きなのよ」

「ああ、それは確かに。媚びる女って昔から嫌いですから」

「やっぱりねえ。うん、山辺さんとは気が合いそうだ」

 夕純が嬉しそうに頷いているところへ、女将が注文した料理を運んできた。
 玉子焼きにモツの煮込みにポテトサラダ。
 さらに頼んでいないはずなのに、小鉢に入ったワラビの煮物もそれぞれの前に置かれた。

「これはサービス。昨日、ウチの人が山で採ってきたのを煮付けたんだけど良かったら食べてみて」

 言いながら、女将はちょっと口元を緩める。
 不愛想なのかと思ったが、人並みに笑うことが出来るんだな、と涼香は女将を眺めながら思った。

「じゃ、ごゆっくり」

 空になったビール瓶を持ち、すぐに立ち去ろうとした女将を、夕純が「あ!」と引き止める。

「ビール追加お願い出来ます? それと冷酒も」

「はいよ」

 また、愛想のない返事をすると、女将はカウンターへ向かい、それからすぐに追加の瓶ビールと徳利をそれぞれ二本ずつ、さらに猪口もふたつ持ってきた。

 やはり、ふたりの前で栓を抜いてビールを注いでくれる。
 他のお客にも同じようにしていたから、女将にとってはごく自然の行為なのだろう。
 愛想はなくても、嫌々やっているという感じでもない。

「ごゆっくり」

 今度はさすがに呼び止める理由もなかったから、そのまま女将の背中を見送った。