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 実家に戻り、宏樹は車を、朋也は荷物を自室に置いてからすぐに家を出た。
 予想通り、母親には、「もうちょっと落ち着けないの?」とぼやかれたが、兄弟揃って聴いていないふりを装った。

 ふたりが向かった先は、徒歩十分ほどの場所にある焼き鳥屋。
 朋也が家を出て間もなく出来た店らしい。

 焼き鳥屋だけあって、店の中は煙が充満している。
 換気扇は回しているようだが、あまり意味をなしていない。
 とはいえ、煙たさもまたその店の味だと思えばさほど気にならない。

 朋也と宏樹は一番奥のテーブル席に着いた。カウンター席も決して悪くないが、宏樹なりに気を遣ってくれたのかもしれない。
 確かに、カウンター席だと密談するには不向きだ。
 それを考えると、奥の席が空いていたのは幸運だった。
 密談と呼ぶには大袈裟かもしれないが。

「まずはビールでいいよな?」

 宏樹に訊かれ、朋也は「ああ」と頷く。
 それを見届けてから、宏樹が店の従業員を呼び、瓶ビールと焼き鳥をお任せで注文した。

 ほとんど待つことなく、ビールは運ばれてきた。
 一緒にお通しもそれぞれの前に置かれる。

 従業員が離れてから、宏樹がビール瓶を持ち上げる。
 そして、注ぎ口を朋也に無言で向けてきた。

 朋也は少し慌ててコップを手に取った。
 わずかに傾けて差し出すと、琥珀色の液体がコップの中にゆっくりと注がれてゆく。