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 実家を長いこと離れていたのだから、当然、宏樹の車に乗るのもずいぶんと久しぶりだった。
 朋也が高校在学中に買った宏樹の愛車は、だいぶ乗り潰され、何となく年季が入っているように思えた。

「腹減ってる?」

 朋也がシートベルトを締めたタイミングで、宏樹が訊ねてきた。

「まあ、そこそこに」

「そこそこか」

「来る前には軽く食ってたしな」

「じゃあ、家まで我慢出来るか?」

「こっからだったら大した距離じゃねえだろ?」

「それもそうだな」

 他愛のない会話を繰り返してから、ようやく宏樹はアクセルを踏み込んだ。
 少しずつ、スピードが上がってゆく。

「紫織は元気?」

 何も喋らないのも気まずい気がして、朋也から話題を振ってみた。

 宏樹は前方に視線を向けたまま、「ああ」と答える。

「そんなにちょくちょくは逢ってないけどな。こっちは仕事がちょっと忙しいし。けど、時間があればメシぐらいは食いに行ってるよ」

「そっか」

「朋也は?」

「俺?」

「うん。友達と飲みに行ったりとかしないのか?」

「まあ、行くことは行くよ。ついこの間は、人数合わせだとか言われて合コンに連れてかれたし」

「合コン? お前が?」

「――なんだよその言い方……」

「いや、別に」

 そう言いつつ、宏樹はあからさまにニヤニヤしている。
 合コンに参加したという事実が、宏樹的にはツボにはまったらしい。