「――ほんとは女子の方がいいと思ったんだけど……」

『紫織じゃダメなのか? 紫織はれっきとした女子だぞ?』

 先ほどとは打って変わり、真面目に返してきた宏樹に対し、朋也は絞り出すように、「ダメなんだよ」と訥々と続けた。

「紫織に言ったら、確実にこってり絞られるし……。なんつうか……、紫織の友達絡みだから……」

 これ以上はどう説明していいのか分からなかったこともあり、言えなかった。

 携帯の電波を通し、沈黙が流れる。
 宏樹も何か考えているのだろうか。

『よく分からんけど』

 しばらくして、宏樹から口火を切った。

『今度、連休でも取ってウチに来いよ。お前、ずーっと実家に戻ってないだろ? 親父もおふくろも、朋也はいつになったら帰って来るんだ、ってぼやいてるし』

「――別に俺が帰らなくたって、兄貴はずっとそっちにいるだろ?」

『お前のことが心配なんだよ。特におふくろは、いっつもお前を案じてるんだぞ? 手紙を書いても、ちっとも返事を寄越さないだろ?』

 宏樹の鋭い指摘に、朋也はグッと言葉を詰まらせる。
 確かに、実家にも戻らず、手紙での連絡さえもしていないのだから、普通の親であれば気にかかるのは当然のことかもしれない。

「まあ、何の音沙汰もないんじゃな……」

『そうだぞ? お前、とんでもない親不孝をしてるんだからな』

 気付けば宏樹に説教されている。
 とはいえ、宏樹の言うことはいちいちもっともだから、反論のしようがない。