「同期って、女の子?」

 内心は穏やかでなかったものの、平静を装いながら訊く。

 朋也はわずかに躊躇い、ゆっくりと首を縦に動かした。

「ついでに……、彼女に変なことも言われたから……」

「何を言われたの?」

 つい、口調を荒らげた。
 朋也の立場になってみれば、ただの〈友人〉でしかない涼香に詰問される謂れはない。
 それはよく理解していたが、負の感情がじわじわと心を支配してゆく。

 涼香の苛立ちが伝わったのか、朋也はバツが悪そうに目を逸らす。

「告白とかされた?」

 図星だったらしい。
 朋也がビクリと肩を上下させた。

「そう」

 涼香は素っ気なく言った。
 もちろん、心の中は相変わらずどす黒い感情が渦巻き続けている。
 朋也に堂々と告白した〈誰か〉が妬ましく、また、ほんの少しの勇気も持てない自分が腹立たしかった。

(私は、『好き』だなんて言えない、絶対……)

 朋也の本心を知っているから――いや、そんなのはただの建前で、単純に嫌われてしまうことを恐れている。
 涼香には、紫織や〈誰か〉のように真っ直ぐに相手にぶつかるだけの度胸がまるでない。
 仕事なら、周りの男達に負けるものかと必死になれるが、恋愛に関しては人一倍臆病なのだ。
 先の先まで考えてしまい、一生、自分の想いは閉じ込めたままでいようとしてしまう。
 言葉にせずとも、いつかは想いが伝わるかもしれない、などと都合の良いことを考えているのも確かだ。

(でも、高沢には行動だけじゃ伝わらないんだ……)

 酔いがしだに醒めてゆく。
 アルコールを大量に呷ったはずなのに、本当はまだまだ足りなかったのだろうか。