そこへ、出来上がった料理が次々と運ばれてきた。
 刺し身の盛り合わせと唐揚げ、さらに、以前に食べて美味しいと思っていた玉子焼きも注文していた。

「これはサービスね」

 そう言いながら、涼香と朋也の前に小鉢をそれぞれ置く。
 以前はワラビの煮物だったが、今回はタコときゅうりとワカメの酢味噌和えだった。

(ここって必ず小鉢をサービスしてくれるの?)

 小鉢の中身をまじまじと見つめていると、女将は、「ごゆっくり」と言ってこの場を去る。

「サービス、ってことはタダ? ほんとに……?」

 小鉢を摘まむように持ち上げながら、朋也が涼香に訊ねてくる。

 涼香は、「多分」と答えた。

「前に来た時もワラビの煮物をサービスしてもらったし。実際、料金には含まれてなかったから、多分、今回もじゃないかな?」

「ふうん。まあ、金がかかったとしても大した額じゃねえと思うけど……」

 朋也の言い回しはいかようにも意味が取れる。
 多分、『お通し代ぐらいの追加料金は払うよ』と言いたかったのだろうが。

 朋也は再び、テーブルの上に小鉢を戻した。
 そして、ワカメのくっ付いたタコを箸で掴み、口に運ぶ。
 無表情で咀嚼しているが、人が食べている姿を見ていると何故か美味しそうに映る。

 涼香も小鉢に箸を入れた。
 タコときゅうりを同時に取って口に放り込むと、真っ先に酢味噌の甘酸っぱさがいっぱいに広がる。
 食べていると、今度は日本酒が無性に飲みたくなってきた。

「日本酒も頼んじゃお。すっごく飲みたい」

 酒が絡むと、どうしても欲望の赴くままに行動を起こしてしまう。

 朋也は黙々とビールを飲み続けながら、酒飲みモードに完全に突入していた涼香を見つめ続ける。
 若干、引いているだろうとは察したものの、飲みたいものを我慢するのも身体に良くないし、と自分を無理矢理納得させた。
 改めて、酒は怖いとつくづく思う。