「女はそうそう出世なんて出来ないわよ?」

「そう? 山辺さんだったら男を踏み台にしてグングン上に行きそうだけど?」

「私の上司にそうゆう人はいるけど、私はそこまでなれないわ」

「出世欲はない?」

「さあ、どうとも言えないかもね」

 涼香が言いながら首を竦めて見せたところで、コップが琥珀色の液体で満たされた。
 ただ、泡がほとんどない。
 やはり、少しでも開けてから時間が経ってしまったからだろう。

「ありがと」

 涼香はニッコリと礼を言う。
 朋也の気持ちは嬉しかったから、素直な想いが口から出た。

「私も注いであげるよ」

 一本目は涼香のコップに満たされてなくなっていたから、二本目を新たに開ける。
 栓抜きを使ってビールを開けるなんて家ではまずしないから、何となく新鮮さを覚える。

 朋也は慌てて残ったビールを飲み干し、コップを軽く傾けてきた。

 今度は開けたてだから、液体と泡がほど良い具合に注がれてゆく。
 元々、涼香はビールを上手く注ぐのが得意なのもある。

 朋也は自分に注がれたビールと涼香のビールを見比べ、少し決まりが悪そうにしている。

「俺、かえって余計なお節介焼いちまった……? 俺の注いだやつ……」

「別に気にすることじゃないわよ。これはこれで飲めるし。それに、私は注ぎのプロなんだから」

「なんだそれ、注ぎのプロ、って……」

「仕事の飲み会で必ずお酌して回ってるんだから、自然と上手くなるのよ。何だったら、高沢君にも教える?」

「まあ、どっちでも……」

「なにそれ」

 涼香は思わず肩を揺らしてクスクスと笑ってしまった。

 朋也は、何故笑われるのか、と言わんばかりにポカンとしていたが、やがて釣られるように喉を鳴らして笑い出した。