ほどなくして、瓶ビールが運ばれてきた。
 以前に来た時と同様、ふたり分のコップにそれぞれビールを注いでくれる。

「それじゃ、乾杯ね」

 夕純が言っていたような台詞を、涼香が朋也に向けて言っている。

 朋也はコップを持ち上げ、「お疲れさん」と口元を小さく綻ばせた。

 互いのコップが乾いた音を立ててぶつかり合う。
 それからほぼ同じタイミングでビールを流し込む。

「ああ、生き返るわあ……」

 またしても、夕純と同じようなことを口にしている。
 だが、ビールを飲むと自然と出てしまうから仕方がない。

 一方で、朋也も口には出さなかったものの、美味しそうにビールを飲み続ける。
 喉仏を動かし、半分ほどなくなったところで、ようやくコップから口を離した。

 それにしても、不思議な光景だと改めて思う。
 アルコールを口に出来ない未成年の頃から知っているからというのもあるだろうが、朋也が涼しい顔をして酒を飲んでいるのがにわかに信じられない。
 もしかしたら、朋也も涼香に対して同じ思いを抱いているかもしれない。
 いや、朋也のことだから、涼香のことなど全く気にも留めていないだろうか。

(あ、なんかすっごい落ち込んできた……)

 気分直しに新たにビールを注ごうと瓶に手を伸ばしたら、朋也が先回りして瓶を取り上げていた。

「手酌なんてしたら出世しないっつうだろ?」

 涼香は驚き、けれども軽く会釈して、素直に朋也からの酌を受けることにした。