(けど、こんな性格だから誰とも上手く付き合えないんだよな、私って……)

 苦笑いしながら、ふと顔を上げた時だった。
 ちょうど、朋也がこちらに向かって速足で近付いてくるのが目に飛び込んだ。

 涼香は携帯をバッグにしまった。
 そして、今度はニッコリしながらヒラヒラと手を振った。

「ごめん、遅れた?」

 恐る恐る訊ねてくる朋也に、涼香は、「ぜーんぜん!」と頭を横に振った。

「私がちょっと早かったのよ。まだ、待ち合わせの五分前」

「そっか」

 涼香の言葉に、朋也はホッと胸を撫で下ろしていた。

「それじゃ、早速行こっか? それとも、もうちょっと休んでからにする?」

「いや、いいよ。正直、喉がカラッカラだし」

「あら、ほんとに正直ねえ」

「そういう山辺さんはどうなんだよ?」

「うん、私ももう飲みたい」

「俺とおんなじじゃねえか」

 朋也が表情を崩したとたん、涼香の胸が小さく波打った。
 記憶の中の朋也は、涼香に笑顔を向けてくれたことがない。
 だから、ほんの小さな変化にもドキリとさせられる。

「よっし! ほんとに行くわよ!」

 朋也に心を読まれないようにしようと思った結果、妙なハイテンションで声を張り上げてしまった。

 案の定、朋也は呆気に取られている。

 だが、涼香はそれに気付かぬふりを装った。
 朋也の少し前を歩き、ひっそりと深呼吸を繰り返す。

 ちなみに今日の行き先は、夕純が初めて連れて行ってくれた居酒屋だ。
 本来であれば、女らしく、ちょっと洒落た店にでもした方が良かったのだろうが、あの店が本当に気に入ってしまったから、ぜひとも朋也も連れて行きたいと思っていたのだ。
 それに、あのオヤジ臭い店の雰囲気は、涼香らしいと言えば涼香らしい。
 しかし、今日の服装は、よくよく考えてみたら場違いだった。
 それを今になって気付くのだから、迂闊にもほどがある。

(まあ、高沢は私の服装なんて気にしてなさそうだけど……)

 せっかく悩んで選んだ服にも無反応な朋也に、ホッとしつつも虚しくもある。
 もしも自分が紫織だったら、ちょっとした変化にもすぐに気付いてくれたんだろうな、とほんの少しだけ紫織に嫉妬してしまった。

(ああ、ほんっと私ってヤな女……!)

 うっかり言葉に出そうになったが、何とか心の中で叫ぶだけに留めた。