◆◇◆◇◆◇

 電話が終わったとたん、涼香は一気に力が抜けた。
 朋也に緊張が伝わらないよう、必死で明るく振る舞ったものの、心臓の鼓動は張り裂けそうなほど早鐘を打ち続けていた。

 いきなり電話をするなど、ずいぶんと思いきった行動に出たものだと自分に感心してしまう。
 怖くて途中で携帯電話を投げ出しそうになったが、朋也の声がどうしても聴いていたかったから、最後まで〈押し付けがましい女〉を演じ続けた。

「しかもやっちゃったよ、私……」

 勢いに任せて、つい、飲みに誘ってしまうとは。
 だが、後悔は全くしてない。
 むしろ、何の行動も移さずに会話を終わらせてしまう方がよほど辛い。

 紫織を除け者扱いしてしまったのは申しわけないと思ったが、下戸なのは事実だから、軽々しく居酒屋へは連れていけない。
 ましてや、今度行くつもりの場所は、以前に上司の夕純に教えてもらった男性向けな居酒屋だから、なお無理がある。

「さて、紫織にも報告しといた方がいいのかな……?」

 紫織は涼香と朋也のことをとても気にしている。
 高校の頃から涼香の気持ちを知っているから、朋也と上手くいってほしいと願ってくれているのだ。
 ただ、朋也がまだ紫織に未練があることも薄々勘付いているようだから、それはそれで複雑な心境でもあるようだ。