「もしもし、高沢です」

 つい、他人行儀な挨拶をしてしまう。
 これが紫織か宏樹だったら、改めて名乗りはしない。

『ごめん、遅くに。山辺です』

 涼香もどこか遠慮がちだ。
 ざっくばらんな性格をしているが、電話だと緊張するタイプなのだろうか。

『ごめん、大丈夫?』

 ほんの少しではあったが、沈黙が流れたことに不安を覚えたのか、涼香が恐る恐る訊ねてくる。

 そこで朋也はハッとなり、「あ、大丈夫だよ」と答えた。

「それよりどうした? 電話してくるなんて珍しくねえか?」

『ああうん、そうだね』

 電話の向こうの涼香は、あはは、とわざとらしく声を出して笑った。

『たまには電話でもしてみよっかな、なんてね。って、そんな親しい間柄でもないっか!』

 涼香の様子がおかしい。
 だが、あえてそこは突っ込まなかった。

『えっと、今日はなにしてたの?』

「ああ、さっきまで友達と飲み行ってた」

『へえ、いいわねえ! 楽しかった?』

「うん、まあな」

『――つまんなかったの……?』

「いや、つまんなくはなかったよ」

 どうして上手く嘘が吐けないのだろう。
 朋也は自分で自分に呆れた。