まさかとは思ったが、誓子も朋也に着いて来る。
 さすがにべったりとくっ付いてはいないものの、それでもやたらと距離が近い。

「高沢君」

 苗字を呼ばれ、朋也は無言で隣の誓子を一瞥した。

「高沢君って、ほんとは彼女とかいる?」

 突拍子もない質問だった。朋也は慌てて視線を逸らし、「いねえけど……」と答えた。

「なら、好きな子は?」

 またさらに、突っ込んでくる。

(この女、ほんと何なんだよいったい……)

 朋也は心の中で舌打ちをする。
 答える義理なんてないと思い、黙秘しようとしたのだが、誓子はやはりしつこかった。

「ね、いる?」

「そんなこと訊いてどうすんの?」

 さすがに苛立ちが募り、つい刺々しい言い回しになってしまった。

 とたんに、誓子は驚いたように呆然と朋也を凝視した。
 そして、しだいに気まずくなってきたのか、しぼんた風船のように勢いを失くし、そのまま俯いてしまった。

 朋也の良心が痛んだ。
 他人のプライバシーに首を突っ込んできたのは確かに誓子だったが、もう少し、オブラートに包んだ口調で返すことも出来たはずだ。

 ふたりの間に沈黙が流れる。
 誓子に謝ろうとも思ったが、どこかでそれを拒んでいる。
 恐らく誓子も、朋也を怒らせてしまったと気にしているかもしれない。