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 しばらく走り、飲み会に参加したメンバーの姿が完全に見えなくなってから、朋也はようやく足を止めた。
 とたんに、ゼイゼイと息が切れる。
 考えてみたら、高校を卒業後はロクに運動をすることもなくなっていたから、体力もだいぶ落ちている。

「トシ取ったよな、俺も……」

 無意識に呟き、ふと、こんな台詞を兄の宏樹が聞いたらどんなに突っ込まれるか、と思った。
 宏樹は穏やかそうで、相当痛いところを鋭く突いてくる。
 優しいのに、笑顔が不思議と恐怖を煽る。

「あいつ、昔っからサドっ気が強かったしな……」

 満面の笑みを見せる宏樹を思い浮かべ、朋也は何度も頭を振った。
 そして、別のことを考えようと思い直したら、今度は紫織が浮かんでくる。

「ああもうっ! ダメだダメだダメだーっ!」

 クソッ! と捨て台詞を吐き、自らの髪を乱暴に掻き乱した。
 本当に、いつになったらけじめを着けられるのか。
 そんなことを悶々と考えていた時だった。

「――大丈夫?」

 すぐ側で声をかけられた。

 朋也は仰天した。
 誰だ、と思いながら恐る恐る声のした方に首を動かすと、カラオケに行ったはずの誓子が怪訝そうに朋也を凝視していた。

「どうしたの、急に喚き出しちゃって? もしかして酔っ払ってる……?」

「え、いや、酔っ払ってるっつうか……」

 朋也はしどろもどろになりつつ、「それよりも」と話題を切り返した。

「えっと、いの、うえさんこそどうしてここに? カラオケ行ったんじゃねえの?」

 朋也の問いに、誓子は小首を傾げる仕草を見せた。

「うーん、どうしよっか考えたけど、やめちゃった」

「なんで?」

「高沢君が行かないってゆうから」

 誓子の言葉に、今度は朋也が首を傾げる番だった。

「俺、歌はすっげえヘッタクソだから耳が腐ると思うけど?」

「そうゆう人ほど下手じゃないと思うよ?」

「いや、他の連中も知ってっから……」

 どうしてここまで自分に絡んでくるのか。
 その理由がまるっきり分からない朋也は戸惑うばかりだった。
 どうすべきか考え、けれどもいつまでも立ち止まっているのもどうかと思い、ゆっくりと歩き出す。