「今、好きな人とか、いる?」

 遠慮がちに訊ねられた。

 涼香の心臓がドキリと跳ね上がる。
 だが、努めて冷静を装い、「どうだと思う?」と逆に訊き返した。

「――ごめん……」

 紫織が謝罪を口にした。
 どうやら、涼香の反応を拒絶だと受け止めたらしい。

 涼香は微苦笑を浮かべ、ゆっくりと立ち上がって紫織の頭の側に腰を下ろした。

「今日まさに、偶然再会したよ」

 主語はあえて抜かした。
 だが、紫織は誰かを察したようだ。
 半身を起こし、涼香と並んで座り直すと、まじまじと視線を向けてきた。

「まだ、好きだったんだ……」

「呆れてる?」

 肩を竦めながら問うと、紫織は首を横に振った。

「私だって、ずっと長いこと宏樹君に片想いを続けてたから。でも凄いね。涼香と朋也が再会したのって。だって、お互い連絡先は知らないんでしょ?」

「そりゃあね。そこまで親しい間柄だったわけじゃないし。ああでも、今日ご飯食べてから携帯番号とメールアドレス交換したわ」

「いつの間に……」

「ビックリした?」

「ビックリするに決まってるじゃない……」

 紫織はそう言ってから、「でも」と満面の笑顔を見せながら言葉を紡いだ。

「ほんとに良かった。これがきっかけで距離が縮まるんじゃない?」

「だといいけどねえ」

 涼香は上体を反らせ、足を組んだ。