「ああもうっ! 可愛いぞこんちくちょうめっ!」

 涼香は紫織に両腕を伸ばし、そのまま華奢な身体を抱き締めた。
 風呂上がりだから、シャンプーとボディソープの匂いに加え、柚子湯の香りが鼻を掠める。

「ちょっ、やだっ! 涼香なにすんのっ? 馬鹿アホド変態っ!」

 予想を裏切ることなく、紫織はありったけの言葉で喚きながら、涼香の腕の中でジタバタと暴れる。
 この反応が面白いから、腕の力はさらに強くなる。

「こらこら、大人しくなさい。これ以上はなーんも変なことしないからあ」

「〈これ以上〉があって堪るかっ!」

「おーおー、最近の若い娘は活きがいいねえ」

「涼香の変態オヤジーっ!」

「私変態オヤジだし」

「そこは突っ込め!」

 あまりにも紫織が騒ぐものだから、そのうち、紫織の母親が心配して姿を現した。
 幸い、ノックをしてきたところでさすがに涼香も紫織を解放したから、涼香と紫織がじゃれ合っている姿を見られてしまうことはなかった。