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 涼香が上がり、紫織も入浴を済ませてから、ふたりはそのまま紫織の部屋に入った。
 その間、帰りが遅い紫織の父親も帰宅したので挨拶もした。

 紫織の父親は感じがいい。
 接客に携わる仕事をしているからだろうか、どんなに疲れていても、この家の客である涼香にさり気なくであっても気を配ってくれる。

 つい、自分の父親と比べてしまう。
 涼香の父親も悪い人間では決してないものの、愛想がいいとはとても言い難い。
 嫌いではないが、好きとも言えない。

 改めて、紫織が羨ましくなる。
 欲しいものを全て持っている紫織。
 自分が想いを寄せる相手の心も捉え続ける紫織。
 けれど、涼香は紫織が大好きだから嫌いになんてなれない。

「あーあ、私が男だったら良かったのになあ」

 思ったことを口に出すと、紫織は驚いたように目を丸くさせた。

「急に何なの?」

「そのまんま、言った通りの意味だけど?」

「男の人になりたいの?」

「その方が何かと楽そうじゃん?」

「そうかなあ……?」

 紫織は小首を傾げる。
 本当に、この何気ない仕草ひとつひとつが可愛らしいのがちょっと憎らしい。