「涼香ちゃん、いらっしゃい」

 リビングに入るなり、母親は満面の笑みで涼香を迎えた。

「こんばんはー! お言葉に甘えてお邪魔しちゃいましたー!」

「いいのよお。涼香ちゃんならばいつでも大歓迎だから。気兼ねしないでゆっくりしてねえ?」

「はーい!」

 無邪気に返事をする涼香に、母親はまた嬉しそうに微笑み返す。

(ほんっと、涼香に甘いよなあ、お母さん……)

 ふたりのやり取りを少しばかり見届けてから、紫織は涼香から貰った箱を母親に渡した。

「これ、涼香からお土産だよ」

「あら、まあ!」

 予想通り、紫織と同様、目をキラキラさせていた。

「もう、涼香ちゃんってば気を遣わなくていいのに。でも、せっかくだからありがたくいただくわね。食後のデザートにしましょ」

 この台詞の最後には、確実に音符マークかハートマークは付け加えられている。
 もちろん、箱の中身もちゃんと分かっているはずだ。

「それじゃ、早いけどお夕飯にしましょう。お父さんはいつものように帰りが遅いし。待っていたらいつまでも食べられないものね」

「だよね。お父さんを待ってたら死んじゃう……」

「そうそう。お父さんには残りもので充分!」

 いやいや、私はそこまで言ってないし、と紫織は心の中で母親に突っ込みを入れた。
 とはいえ、実際に父親は残りものにしかあり付けないのだから、母親の言うことは間違ってはいない。

「今日は残りものだって凄い贅沢よ。涼香ちゃんが来てくれたことに感謝してもらわないとね」

 また、妙にずれたことを口にしている。
 もう、心の中で突っ込む気にもなれなくなった。

「とりあえず、その箱冷蔵庫にしまっとこうよ」

 いつまでも動きそうにないので、紫織が再び箱を取り上げて冷蔵庫へ向かった。

 母親は、そのまま涼香と向かい合わせに座って話を始めてしまった。

(どっちの友達なんだか……)

 そう思いながら、さっきの電話の時と同様に楽しそうにしている母親を、紫織は笑みを湛えながら見つめていた。