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 涼香が家に来たのは、午後六時十分前だった。

「悪いね。ちょっと早いかと思ったけど」

 そう言いながら、玄関先で涼香は紫織に袋に入った白い箱を差し出してきた。

「わっ、ほんとに買ってきてくれたのっ?」

 紫織は目を爛々と輝かせながら箱を受け取った。

 そんな紫織に、涼香は「あったりまえでしょ!」と踏ん反り返って見せる。

「涼香ちゃんは友達想いだからね。あ、一番はスポンサーに恩を売っとくことか」

「――スポンサー、って、まさか……、お母さん……?」

「他に誰がいると?」

「――だから威張って言うことじゃないでしょ……」

 盛大に溜め息を漏らす紫織を前に、涼香は得意気に歯を見せて笑う。
 本当に、涼香らしいとしか言いようがない。

「ま、上がってよ。料理はだいたい出来てるからすぐ食べれるよ?」

「おおっ! そういやすっごいいい匂いする!」

 涼香は靴を脱いで上がりながら、鼻をクンクンとさせている。
 黙っていれば同性から見てもかなりの美人なのに、こういった行為が涼香の魅力を台無しにしている、と紫織はつくづく思う。
 もちろん、そういう飾らないところが良い面でもあり、母親も気に入ってくれているのだが。