(何より、宏樹君が私以上に朋也を案じているものね……)

 昔も今も、宏樹はあまり自分の感情を表に出さないが、それでも、朋也を心配する気持ちはいつも伝わってくる。
 紫織が聡くなってきたのか、それとも、宏樹が以前よりも少しでも変わったからなのか。

 頭の中で色々考えながら皮剥きを続けていたら、リビングの電話が鳴り出した。

 紫織はそこで、ハッと我に返る。

「紫織、あんたちょっとお鍋の火も見ててちょうだい」

 母親はそう言って、水道で手を洗い、備え付けのタオルで軽く手を拭いてからリビングまで小走りした。

 紫織はその背中を見送ってから、言われた通り、鍋の火加減を見る。
 鍋の中では、蓋越しにコトコトと食材が煮える音が聴こえてくる。
 ふんわりと上る蒸気と一緒に、コンソメの良い匂いも鼻の奧を擽った。

 母親はまだ戻らない。
 話し方の様子から、親しい人からの電話らしい。
 時おり、楽しそうな笑い声も聴こえてくる。

「さて、次は何したらいいかなあ?」

 ひとりごちながら、冷蔵庫を開けて新たな食材を出し、まだ話が弾んでいる母親を背中に感じながら作業を再会した。