涼香はその相手に肩を竦めて見せてから、「それじゃ」と電話の向こうの紫織に声をかけた。

「とりあえず切るわ。あ、私もなんか、手土産のひとつでも持ってく」

『ホントッ? だったら前に貰ったシュークリームがいいな。あれ、お母さんも美味しいって言ってたから』

「はいよ。忘れてなければ買ってくよ」

『忘れちゃダメ!』

「怖いよ、あんた……」

『食べ物の恨みは怖いのよ? 当然でしょ?』

「まあね」

 涼香は微苦笑を浮かべた。

「じゃあ、ホントに切るからね? またあとで」

『うん。それじゃあねえ』

 どちらからとも通話を切ると、涼香は再び携帯をバッグに放り入れた。

「さて、まだ夜になるまでには時間があるな」

 ひとりごちながら、腕時計を確認する。
 現在時刻、二時三十分。

「帰るにも中途半端だし、どっかでお茶して時間潰すか」

 涼香は辺りを見回しながら歩き、そこで一軒のファーストフード店を見付けると、迷うことなくそこへ入った。
 少し混雑しているようだったが、座る場所は何とか確保出来た。

 安いだけあって、薄くて味気ないコーヒー。
 さらにひとりで飲んでいる姿は、非常に淋しく映っているに違いない。

 ふと、先ほどまで一緒だった相手のことを想い浮かべる。
 ほとんど強引に昼食を誘ってしまったが、彼はそんな涼香をどう思っただろう。
 だが、彼の姿を目の当たりにした瞬間、考えるよりも先に行動に出ていた。
 まさか、あそこまで積極的になれたとは自分でも驚いたが。

(紫織のようになりたい、って無意識に思っちゃったのかな?)

 紙コップに半分残ったコーヒーを見つめながら、涼香は思う。
 振ってみると紙コップの中で琥珀色の飛沫が撥ね、小さな波紋を作ってゆく。

(今日のこと、紫織に話してみるか……)

 涼香は紙コップに口を付け、残ったコーヒーを一気に呷った。