「紫織とは逢ったりしてんの?」

 どうにか会話をしようと、紫織のことを話題に出す。

「たまにね」

 朋也の質問を受けた涼香は、水で口を湿らせてから続けた。

「携帯番号も交換し合ってるから、逢わない時は電話とかメールもするわね。あとは手紙。特にあの子は筆まめだから、よく手紙をくれるわよ」

「ああ、分かる気がする」

「高沢君トコにも、紫織から手紙届く?」

「うん。実は昨日も寮に届いてた」

「そっか。ひとりで頑張ってる高沢君をあの子なりに案じてるのかもね」

「どうだかね」

「そうよ。あの子にとっては、高沢君も大切な存在だもの」

 そこまで言うと、会話が途切れた。
 と、何となく涼香の表情を覗ってみたら、ほんの少し翳りが差したように感じた。
 だが、それは一瞬のことで、朋也と視線が合うと、ニコリと微笑んできた。

(気のせいか?)

 涼香の哀しげな表情がわずかに気になったが、従業員が料理を運んできたとたん、朋也の興味は料理の方へ変わってしまった。

 湯気と共に、醤油の香ばしい匂いがふわりと立ち上ってくる。
 ずっと空腹を覚えていたから、なおのこと魅惑的に感じる。

「ごゆっくりどうぞ」

 料理を並べ終えた従業員は、少し早足でその場を去って行く。
 忙しい時間帯だから、のんびりもしていられないのだろう。