「平日はランチもやってるから。パスタは日替わりになるから選べないけど、こっちの方がお得よ。サラダもデザートもドリンクも付くしね」

 そう勧められたので、ランチメニューに注目してみた。
 今日の日替わりパスタは、どうやら鮭とキノコの和風スパゲッティらしい。

「この鮭とキノコのやつって美味いの?」

 朋也が訊ねると、涼香は、「美味しいわよ」と首を縦に振りながら断言した。

「醤油ベースであっさりしてるから、結構食べやすいしね。あと、普通に単品になるけど、イカスミもお勧めよ。でも、これって食べると口の中が真っ黒けになるのよね」

「だろうな」

 朋也もイカスミは嫌いじゃない。
 だが、涼香が特に推すランチに気持ちが傾いていたから、素直にランチを頼むことに決めた。

「じゃ、私もランチにしちゃお。ま、ここ入る時からランチにする気だったんだけどね」

 また、ケラケラと楽しそうに笑う。
 意外といっては失礼かもしれないが、本当に表情豊かだ。

 近くを通りかかった従業員を呼び止めた涼香がランチを二人前注文してから、涼香は「良かった」と口にする。

「高沢君、元気そうにやってたみたいだから。正直言うと、ずっとどうしてるか気になってたのよね」

「どうして?」

「何となく」

「ふうん……」

 紫織ならともかく、何故、それほど親しくもない自分を気にかけるのか。
 朋也は当然、分かるはずがない。
 そもそも、朋也は涼香に声をかけられるまで、涼香の存在自体をすっかり忘れていたほどだ。