涼香が挨拶したのをきっかけに、それまで固唾を飲んで黙っていた彼女達も、ボソボソと〈お局様〉に挨拶した。
 ただ、涼香と違って全く心が籠っていない。
 それは〈お局様〉にも伝わったらしく、涼香に向けた優しい微笑みを引っ込め、皮肉めいた苦笑いをお見舞いしていた。

「あ、私達そろそろ。すいません、お先しまーす!」

 さっきまでウダウダしていたくせに、〈お局様〉が現れたとたん、そそくさと行動し、追われるように帰ってしまった。

 更衣室には、涼香と〈お局様〉が残された。
 どちらも共通して無駄話は好まない方だから、耳鳴りが煩く響くほど静けさに包まれる。

 着替えはすでに終えていた。
 だが、完全に帰るタイミングを失った涼香は、何となく、〈お局様〉が着替えるまで待ってしまった。

 〈お局様〉は最初、涼香がいたことに気付いていない様子だった。
 しかし、ロッカーの鍵を閉め、バッグを肩にかけた頃になって、ようやく、「あら」と驚いた様子で涼香に視線を注いできた。

「山辺さん、待っててくれたの?」

 まさか、単純に帰りそびれたとは言えなかったので、「はい」とだけ答えた。

 そんな涼香を〈お局様〉はどう思ったのだろう。
 どこどなく鋭い眼光を向けてくる。
 小ぢんまりしているのに目力だけは凄い、と涼香は改めて思い、無意識に身を縮ませてしまった。