「――もしかして、迷惑、だった……?」

 なかなか答えない朋也に、涼香がおずおずと訊ねてくる。
 何となく悪いことをしているような気持ちになり、さすがに内心焦ってしまった。

「いや、迷惑とかじゃないけど……」

「――『けど』?」

「むしろ、山辺さんの方に迷惑かけるんじゃないか、って……」

「どうして?」

「いや、だってさ……」

 朋也は少し躊躇ったが、思いきって言葉を紡いだ。

「つまり、彼氏とか? 俺と一緒にいるトコを見られたら誤解されるんじゃない?」

 朋也の言葉に、涼香は目を丸くさせた。
 そのまましばらく凝視されたが、そのうち、声を上げて笑い出した。

「あっははは……! そんなのないない! 私彼氏とかしないし! てか、全然モテないもの! だからその手の心配ご無用!」

 公衆の面前で、涼香は恥じらいもなく笑い転げる。
 時おり、近くをすれ違う人がチラッとこちらに視線を送ってくるから、朋也としては気まずくて仕方ない。

「わ、分かったから山辺さん。だからそろそろ笑うのは抑えて……」

 やんわりと注意され、涼香はそこで、「ごめんごめん」と言いながら、ようやく笑うのをやめてくれた。

「それじゃ、場所移そうか? あ、誘ったのは私だから奢るから」

 どうやら、一緒に食事をするのは決定事項らしい。
 別に拒否する理由もないから良いのだが。

「食べたいものとかある? それとも、私に任せてもらってもいい?」

「俺は別にどっちでも」

「遠慮深いなあ。まあいいわ。じゃ、私の行きたいトコにさせてもらおっかなあ」

 そう言うなり、涼香は先に遭って歩き出す。

 朋也は少し遅れて、そのあとを追った。

(ラーメン屋、じゃなさそうだな)

 涼香と並んで歩きながら、特にラーメンが食べたいという気分ではなかったしいいか、と朋也は心の中で自分に言い聞かせた。