「――どちらさん、でしたっけ……?」

 相手の素性が分からない以上、素直に訊くしかない。
 しかも、年上かも年下かも分からないから、無難に敬語を使った。

 そんな朋也に、彼女は、「まあ、無理もないか」と小さく溜め息を吐いたあと、訥々と続けた。

「山辺涼香よ。あ、名前を言ってもダメか。えっと……、加藤紫織とずっとつるんでいた女、って言った方が分かりやすいかしら?」

(ヤマノベ、リョウカ……?)

 朋也は心の中で彼女の名前を反芻する。
 だが、紫織とつるんでいた、というキーワードで、朋也はようやくハッと気付いた。

「――もしかして、同じクラスにもなったことあった?」

 さらに問うと、彼女――涼香はパッと花が咲いたように満面の笑みを見せた。

「やっと想い出してくれたのねっ? そうそう、高二と高三で紫織と三人で同じクラスだったの!」

 そう言うと、「良かったあ」と胸を撫で下ろす。

「ほんとはいきなり話しかけるのもどうかと思ったんだけど、高沢君らしき人を見たら、つい懐かしくなっちゃって。でも、そっくりさんだったらとんだ大恥だったわね。本人でほんと良かったわあ」

 涼香は言いながらケラケラと笑う。
 元から屈託ない性格だとは思っていたが――第一印象だけは全く違ったものの――、今でも全く変わってなさそうだ。

「ところで、高沢君はここで何してたの?」

「何って……、ちょっとメシでも食おうかと思ってただけだけど?」

「あ、そっか。ちょうどお昼時だもんね」

 涼香は朋也をまじまじと見つめ、それから少し間を置いてから、「ねえ」と続けた。

「良かったら、これから一緒にご飯食べない?」

 あまりにもサラッと誘われ、朋也は一瞬、答えに窮した。