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 歩くこと十分強、目の前に街が見えてきた。
 一応、県内では一番栄えている場所だが、都心に比べたらだいぶ田舎かもしれない。
 だが、さらに田舎に住んでいた朋也にとっては、この辺も充分過ぎるほど都会に思える。

(さて、なに食うかなあ?)

 朋也はゆったりとした足取りで、街中の店を物色する。
 色んな店があるから、かえって悩んでしまう。
 実家にいた頃だったら、入るのは近所の中華料理屋か焼肉屋と決まっていたのに。

(ラーメンが一番無難か……)

 そう思い、目に付いたラーメン屋に足を向けようとした時だった。

「高沢君?」

 後ろから声をかけられた。
 だが、最初は自分が呼ばれているとは思わず、そのままラーメン屋の戸に手をかけた。

「高沢君、だよね?」

 再び呼ばれた。
 今度はさすがに自分だと察し、朋也はそのままの姿勢で首だけを動かして振り返った。

 そこにいたのは、ひとりの女。
 アクのないすっきりとした顔立ちだが、化粧気があまりなく、それでも彼女の美貌は際立っている。
 しかし、それ以上に驚いたのは背の高さだった。
 朋也も180センチ以上あるから充分長身だが、彼女も女性にしてはかなり身長が高い。恐らく、170ぐらいはあるのではないだろうか。

(けど、こんな知り合いいたっけ?)

 不躾なのを承知で、長身の彼女をジッと凝視していたら、彼女は困ったように微苦笑を浮かべながら肩を竦めた。

「私ってそんなに存在感薄かったのかな?」

 いや、薄いどころか相当強いインパクトがある。
 だが、やはり、いつ、どこで逢っていたのか全く想い出せない。