「とりあえず、こいつを胃に突っ込んどけ」

 前触れもなく朋也に投げ付けてきたのは、個別包装された一口サイズのサラミだった。

 朋也は驚きつつ、それでもしっかりキャッチする。
 料理はダメでも反射神経だけは自身がある。

「さっすが高沢君。ナイスキャッチ!」

 親指を立てながらニヤリと笑う充に、「茶化すな」と吐き付け、朋也はおもむろにサラミの袋を開けた。

「別に茶化しちゃいねえんだけどねえ」

 充はあたりめを手に戻ってくる。
 そして、やはり食べやすいように袋を全開し、テーブルの中心にそれを置いた。

「そんじゃ、ピザが届くまでまずは乾杯するぞー!」

 充はビール缶を持って、それを朋也に近付ける。

 朋也は面倒臭いと思いつつ、つまみだけでなく、実はビールも充がストックしていたものだと気付き、少し慌てて缶を手に取った。

(スポンサーには逆らねえよな、さすがに)

 充は細かいことを気にしない性格だが、それでも、気を遣うべきところは遣わないと、と朋也は思う。
 〈親しき中にも礼儀あり〉、もしくは、〈持ちつ持たれつ〉とも言うべきか。

「今日もお疲れさん」

 充の言葉を合図に、互いの缶がカツンとぶつかり合う。
 そのまま喉に流し込むと、ほど良く冷えた苦みがゆっくりと染み渡ってゆく。

「ああ、うめえ。これぞ大人の醍醐味だよなあ」

 オヤジ臭さ全開な充を傍観しながら、朋也はビールを啜り続ける。
 気持ちは分からなくないが、さすがに充のように堂々とオヤジに変貌出来ない。
 この辺は、充曰く、『青臭い』ということらしいが。

(青臭いと言われようが、俺はまだまだ中年オヤジになんてなんねえぞ)

 ビールを半分ほど飲んでから、朋也はサラミに手を伸ばし、包装を開けて噛み締めた。