今日も各部屋の郵便受けに手紙が入っていた。
 つい最近、不便だからと買った携帯電話の請求書と、空色のシンプルな封筒。
 空色の封筒の差出人を見ると、黒い水性ペンで〈加藤紫織〉と書かれている。

「おっ、また例の彼女か?」

 背後から声をかけられ、朋也の心臓が急激に跳ね上がった。
 二通の封筒を握り締めたまま、顔をしかめて振り返る。

「やっだ、そんな怖い顔しないでよお、高沢君ってばあ」

「――オカマみてえな言葉遣いすんな、気色わりい」

 吐き捨てるように言い放つと、声をかけてきた張本人――田口充(たぐちみつる)は、「おお怖っ!」とわざとらしく肩を竦める。
 それがよけい、朋也の癇にいちいち障る。

「それはそうと、お前、どうせ暇だろ? 今日は俺の酒に付き合え」

 馴れ馴れしく肩に手を載せてくる充に、朋也はさらに眉間に皺を刻んで睨んだ。

「『今日は』じゃなくて『今日も』だろ? 日本語は正しく使え」

「まあ、そうとも言う。てか、お前も細かいねえ」

 何を言っても充には全く効果がない。
 それどころか、朋也がムキになるのを面白がっているのがありありと伝わってくるから腹立たしい。

(ったく、実家を出て兄貴から解放されたと思ったのに……)

 首を横に振りながら溜め息を吐くと、充は「どうした?」と顔を覗き込んでくる。
 口元を歪めながら。

「ああ、訊くのは野暮ってヤツだな? 分かった分かった。その可愛い彼女が恋しくなったんだろ? 高沢君も健全な男子だもんねえ」

「――ゲスな詮索をするんじゃねえよ……」

 朋也は舌打ちをし、強引に充を振り払って歩き出した。