高校を卒業したら家を出ると決めていた。
 自立したいから、というのももちろんあったが、一番の理由は、兄の宏樹(こうき)や幼なじみの紫織と距離を置きたかったからだ。

 卒業後、高沢朋也(たかざわともや)は本当に実家を出た。
 金銭的な面でも、さすがに一人暮らしは無理があるだろうと、寮のある会社を探して受け、すぐに内定の通知を受けた。

 正直なところ、仕事内容に拘りはなかった。
 とにかく、宏樹や紫織と顔を合わせる機会が減れば、それだけで気持ちが晴れる。そう思っていた。

 だが、離れて暮らしてみても、心のどこかではまだ、モヤモヤとした感情が燻り続けていた。

 宏樹と紫織が無事に結ばれたことにホッとしている。
 しかし、やはり紫織への想いは簡単に断ち切れるものではなかった。

 会社の寮に入ってからも、紫織からたまに手紙は届く。
 多分、離れて暮らしている朋也を気遣い、周りの近況報告をするつもりで送ってくれているのだろう。

 朋也は手紙が届くたび、喜びと同時に胸に微かな痛みを覚える。
 本当は読まずに捨ててしまいたいと思うこともあったが、手は無意識に封を開け、中の便箋を取り出している。
 そして、癖のある女ものの文字を隅々まで読んでしまうのだから、未練がましいにもほどがある、と朋也は我ながら呆れてしまう。