「私もダメね……」

 夕純は溜め息を吐くと、再び歩き出した。
 涼香も倣って隣に並ぶ。

「好きな子を前にすると見境なくなっちゃって。それをよく分かってるから、気を付けようとしてたのに、また墓穴掘っちゃったわ……」

「――え?」

 涼香は思わず、眉をひそめて夕純を睨んだ。

 その視線に気付いた夕純は、「あ、違う違う!」と慌てて否定した。

「この場合の〈好き〉は恋愛とは無関係だから! えっと……、〈妹を溺愛する姉〉とでも言った方がいいかしら?」

「私が、唐沢さんの妹、ですか……?」

「――迷惑?」

「いや、迷惑とかそういうわけじゃ……」

「なら、友達は?」

「――唐沢さんを〈友達〉として見るのは難しいんですけど……」

「――そう……」

 淋しそうに微笑まれてしまった。また、意地悪をしている気分にさせられる。

「友達、というか、こうしてたまに一緒に飲みに行くならいいですよ?」

 そういう関係こそ〈友達〉じゃないか、ともうひとりの涼香が突っ込んできたが、あえてそれは無視した。

 だが、夕純に『一緒に飲みに行く』はてきめんに効果があったらしい。
 パッと表情を輝かせ、先ほどとは打って変わって満面の笑みを向けてきた。