「やっぱりいいわね」

 唐突に呟いた夕純を怪訝に思いながら、「何がです?」と涼香が訊ねる。

 夕純は涼香を見上げ、目尻を下げながら口元を微かに綻ばせた。

「お酒強い女の子と飲むの。というより、男の話を全くしない女の子と、ね」

「――それって私が男性に縁がなさそう、ってことですか?」

「そうじゃないわよ」

 涼香の皮肉に、夕純は肩を竦めながら苦笑する。

「山辺さんも言ってたじゃない。『媚びる女は嫌いだ』って。普段はこっちが引くぐらいガサツなくせに、ちょっといい男が目の前にいるだけで態度を180度変えちゃうのってどうよ、って思うのよね。まあ、ある意味凄い特技だと思うけど。男も男で馬鹿だから、そういう女にすぐ引っかかって、本性を知ったとたんにポイ。どっちもどっちよね」

 何故、夕純がこんな話をするのか涼香には理解不能だった。
 もしかしたら、酒の勢いで本音を漏らしているのだろうか。

(この人、愚痴を零せる相手がいなさそうだしね)

 涼香も同様なのに、自分のことを棚に上げてそんなことを思う。

 夕純は自分に強い誇りを持っている。
 それは涼香から見てもよく分かる。
 ただ、それだけに、周りに頼るということが出来ない不器用さがある。

(損な性格だよね。って、これこそ人のこと言えないけど、私も……)

 涼香は俯き加減で歩きながら、ひっそりと苦笑いする。
 また、不意に紫織のことを想い出した。