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 店に連れて来られた時は、一時間程度で切り上げるだろうと思っていたのに、気付くと三時間以上も粘っていた。
 いや、夕純に帰る気配がなかったから、途中で帰ることが出来なかったのだが。

 しかも、本当に夕純に全額奢らせてしまった。
 結構な金額になったから、涼香も悪いと思って財布を出したのだが、「いいから!」と強引に引っ込められてしまった。

「言ったでしょ? 今日は私の奢りだ、って。それに、強引に誘ったんだから、ちょっとでも出させてしまったらいたたまれないわ」

 そこまで言われると、素直に従うしかない。

「それじゃあ、ごちそうになります」

 深々と頭を下げると、夕純は満面の笑みを浮かべた。

「素直が一番よ」

 そう言いながら、夕純は女将にお金を払う。

 会計を済ませると、ふたりは「ごちそうさまでした」と女将と旦那に挨拶してから店を出た。
 春先の夜は冷える。
 しかし、だいぶアルコールを呷ったから、そのひんやりとした空気がとても心地良く感じる。

「酔い覚ましにはちょうどいいわね」

 夜空の下を歩きながら、夕純が大きく背筋を伸ばす。
 とても酔っ払っているようには見えないが、もしかしたら、量を飲んでもあまり顔に出ないだけなのかもしれない。
 そんな涼香も、顔に出ない方ではあるのだが。