涼香はどう思ったのか分からないが、とりあえずはいつもの調子に戻り、『仕事でしたよお』と返してくれた。

『今日も真面目に稼いで参りました。ま、終わってからその分、存分に息抜きしたけど』

「飲みに行ったの?」

『まあね。職場の上司と。あ、上司ってのは女ね』

 朋也に誤解されたくないと思ったのか、〈女〉を強調してきた。

「別に男でも女でも構わないんじゃない?」

『私、基本的に男性とふたりっきりで飲まないし』

「俺とは飲むのに?」

『高沢君は別よ』

 即答したように思えたが、何となく、言葉を詰まらせたような気がした。

『そうゆう高沢君はどうなのよ?』

「俺? 俺も飲んできたよ」

『この間言ってた女の子と?』

 探りの入れ方があからさまだ。
 やはり、よほど誓子の存在を気にしているのだろう。

「ハズレ。相手は男だし、俺の身内」

『え、もしかして実家にいたりする?』

「ご名答」

『じゃあ、紫織にも逢ったの?』

「いや、紫織には逢ってない。てか、今回は逢わないつもり」

『どうして?』

「まあ、ちょっとしたお忍び帰省だから……」

『ふうん……』

 涼香に白状してしまった時点で、お忍びでも何でもなくなった気がするが、アルコールが抜けきれていない影響もあって半ば開き直っていた。
 あとで涼香から紫織に報告がいきそうな気はするが、どうして自分に連絡してこなかったのかと叱られるぐらいならばまだましだ。