「それじゃ、またかんぱーい」

 夕純に言われるがまま、涼香はコップを持ち上げてぶつける。
 酒を嗜む前は、おめでたい席で以外はするものじゃないと思っていたが、飲むようになってからは、乾杯は親交を深める儀式のひとつなのかもしれない、と悟ってきた。
 ただ、ベロンベロンに酔っ払った人間に、絡むように何度も乾杯を求められるのは迷惑としか言いようがないが。

 それにしても、夕純はよく食べるし飲む。
 涼香も飲む方だと自覚しているが、もしかしたら、夕純の方が強いのではと思った。

(ちっちゃい身体してんのに……)

 涼香はコップに口を付けたままで、しばらく夕純を観察する。
 と、夕純が涼香の視線に気付き、不思議そうに見つめ返してきた。

「どうしたの?」

「あ、いえ。お酒強いんだなあ、って思って」

 つい、馬鹿正直に言ってしまった。
 涼香は、しまった、と後悔したがもう遅い。

 一方、夕純は目を丸くして涼香に視線を注いでいたが、やがて、「あはは!」と大口開けて笑った。

「やだ、ビックリしちゃったのね! でも、そんなに飲んでないわよ。まだまだ序の口も序の口よ?」

「そ、そうですよね……」

 同意しつつも、実はすでに追加の二本のビール瓶も冷酒の瓶も空になり、さらに追加を頼んで持ってきてもらったところだった。
 だが、それもハイペースで飲んでゆくから、また追加を頼みそうな勢いだ。

「山辺さんも遠慮しないで。私に合わせないで好きなものを頼みなさい」

 そう言ってきてくれたものの、涼香はビールが一番好きだから、それだけでも充分満足だった。
 とはいえ、思ったことを素直に告げても、この調子だと遠慮していると勘違いされそうだ。

「もうちょっとしたら別なものを頼みますので」

 涼香が言うと、夕純は「よろしい」と満足げに何度も頷いた。