野々が颯爽とビルを後にしたそのすぐ後に、見つめる黒い目が二つ。
それは女子高生受けのしそうなキューティクルな小猫のものだ。
柵の上で器用に綱渡りしながら猫は彼女の後をじっと目で辿り、にゃーと鳴いた。
ただそれだけ。
その目が声が悲しげに人には映ったとしても、そこには誰もいない。
最後に猫は首を項垂れて何処かへ消えた。
その三日前の深夜。
月が人々を見下ろす夜。
瀬谷と琴子と明日楽は小さなビルの屋上でお菓子パーティーをしながら、近所の友達がバイトしているそのビルいわくゲストハウスで夜空にむけて声をあげたり、いわゆる近所迷惑をしていた。
すると地上階でスタッフの謝る声が聞こえてきて、咄嗟に口をつぐんで部屋に超速で引きこもってスタッフが若干苛立ち気味に階段を上がってくるのをよそに口笛を拭きながら誤魔化していたのである。
「……行った?まじーわまじ」
「ほんまじい! 瀬谷ちゃん馬鹿すぎ。公共の場でシャウトすんな? ○○の耳元でやれよ!」
ケラケラクスクス。
三人の笑いが止まらない。
今日はフライデーだ。
中学三年。まだ学生だから明日から世間と同じく休みに入る。
んでもって時間に余裕があったので顔見知りの多い瀬谷の友達に無茶を言って、タダで泊めてもらいそこで無礼講よろしく周囲に何の気兼ねなくはっちゃけていて、
「いよっしゃあああああ! ウルトラレアきたあ!」
「まじでか! 私ドラ○エやってたわ」
「あ、あたしはぷよを……話すことないとこうなるよねえいつも」
今は屋内で菓子パーティーの続きをしていたが皆マイペースで自己中なので自由に自分のはなしたい話と好きなゲームに夢中でまとまりがなく、興奮も一息つくと瀬谷は間接の外れた感じで身体を投げ出してスマホとにらめっこし、明日楽は菓子に手を伸ばしながら携帯テレビをつけて欠伸を一つ。
琴子はスマホに疲れたのか餅のように平べったくなって床と同化していて、まあようは寛いでいた。
そんな寛ぎの空間にそれが訪れたのは突然で、最初は琴子が「あっ」と小さく一音。
続けて瀬谷が「えっ?」と反応してすぐにそれに気づいて顔を顰め、最後に明日楽が纏めるようにこう言った。
「これ、美兎(みと)じゃん? え、え? 何かあった? また魔法少女関連?」
全員が各々の携帯をみながら唸りつつ、目を合わせる。
そこには確かにメッセージアプリのグループ魔法少女サロンのメンバーの一人春風美兎からのメッセージで数字が刻まれていた。
魔法少女。御伽噺のメルヘンワード。言ってしまえば昭和ロマン。でも三人は一応、本物であり、本気だった。僅か六人しかいない魔法少女サロンのグループ。そのうちの一人、春風美兎はエースだ。何のエースかはさておき、
「これ本物? 0843742……ね。なんだろ?寝落ちしてからのエラー送信?」
「それ」
「うんうんきまりそれ」
また盛大に笑って近隣からの苦情をもらった。
しかし、三人の中に何か腑に落ちないものがその後もずっと居座っていたのである。
その翌日の事である。彼女の訃報を彼女の家族とニュースで知ったのは。
歳の頃15歳前後の少女が街の防犯カメラに映っていたのだ。
思い詰めるように留まったあと橋から飛び降りたという話で、今は警察が付近の海を捜索しているらしい。
この時点で全ての人、もとい春風美兎の関係者は悟った。もうこれが死体探しであり、彼女はこの世にいないのだと。
そうして一週間程が経った頃、瀬谷はまた性懲りも無く、しかし今度は相談のつもりで集まったゲストハウスで三人で相談していた時の事、休憩と称したコーヒータイムにみたあるニュースに目を留めた。ナレーターは淡々として無表情だった。
「はい、では本日最新の今成市ライブニュースです。先日からの少女失踪現場で身元不明の遺体が見つかったとの事で現在警察が調査していると関係者が明かしました。話によると、近くに落ちていた遺留品から今成市立中学三年の春風美兎さん(15)と判明しました。彼女の遺留品と落とした遺留品に一致する情報があったと。では次のニュースです。一週間程前から今成市内で大量発生していたカラスの件ですが、市民数人が怪我をした為に駆除対象とされ数日前から本格的に駆除が始まっていたらしいのですが、今になって中止との話が。なんでも、駆除に当たった作業員から複数人の死亡者が」
それは女子高生受けのしそうなキューティクルな小猫のものだ。
柵の上で器用に綱渡りしながら猫は彼女の後をじっと目で辿り、にゃーと鳴いた。
ただそれだけ。
その目が声が悲しげに人には映ったとしても、そこには誰もいない。
最後に猫は首を項垂れて何処かへ消えた。
その三日前の深夜。
月が人々を見下ろす夜。
瀬谷と琴子と明日楽は小さなビルの屋上でお菓子パーティーをしながら、近所の友達がバイトしているそのビルいわくゲストハウスで夜空にむけて声をあげたり、いわゆる近所迷惑をしていた。
すると地上階でスタッフの謝る声が聞こえてきて、咄嗟に口をつぐんで部屋に超速で引きこもってスタッフが若干苛立ち気味に階段を上がってくるのをよそに口笛を拭きながら誤魔化していたのである。
「……行った?まじーわまじ」
「ほんまじい! 瀬谷ちゃん馬鹿すぎ。公共の場でシャウトすんな? ○○の耳元でやれよ!」
ケラケラクスクス。
三人の笑いが止まらない。
今日はフライデーだ。
中学三年。まだ学生だから明日から世間と同じく休みに入る。
んでもって時間に余裕があったので顔見知りの多い瀬谷の友達に無茶を言って、タダで泊めてもらいそこで無礼講よろしく周囲に何の気兼ねなくはっちゃけていて、
「いよっしゃあああああ! ウルトラレアきたあ!」
「まじでか! 私ドラ○エやってたわ」
「あ、あたしはぷよを……話すことないとこうなるよねえいつも」
今は屋内で菓子パーティーの続きをしていたが皆マイペースで自己中なので自由に自分のはなしたい話と好きなゲームに夢中でまとまりがなく、興奮も一息つくと瀬谷は間接の外れた感じで身体を投げ出してスマホとにらめっこし、明日楽は菓子に手を伸ばしながら携帯テレビをつけて欠伸を一つ。
琴子はスマホに疲れたのか餅のように平べったくなって床と同化していて、まあようは寛いでいた。
そんな寛ぎの空間にそれが訪れたのは突然で、最初は琴子が「あっ」と小さく一音。
続けて瀬谷が「えっ?」と反応してすぐにそれに気づいて顔を顰め、最後に明日楽が纏めるようにこう言った。
「これ、美兎(みと)じゃん? え、え? 何かあった? また魔法少女関連?」
全員が各々の携帯をみながら唸りつつ、目を合わせる。
そこには確かにメッセージアプリのグループ魔法少女サロンのメンバーの一人春風美兎からのメッセージで数字が刻まれていた。
魔法少女。御伽噺のメルヘンワード。言ってしまえば昭和ロマン。でも三人は一応、本物であり、本気だった。僅か六人しかいない魔法少女サロンのグループ。そのうちの一人、春風美兎はエースだ。何のエースかはさておき、
「これ本物? 0843742……ね。なんだろ?寝落ちしてからのエラー送信?」
「それ」
「うんうんきまりそれ」
また盛大に笑って近隣からの苦情をもらった。
しかし、三人の中に何か腑に落ちないものがその後もずっと居座っていたのである。
その翌日の事である。彼女の訃報を彼女の家族とニュースで知ったのは。
歳の頃15歳前後の少女が街の防犯カメラに映っていたのだ。
思い詰めるように留まったあと橋から飛び降りたという話で、今は警察が付近の海を捜索しているらしい。
この時点で全ての人、もとい春風美兎の関係者は悟った。もうこれが死体探しであり、彼女はこの世にいないのだと。
そうして一週間程が経った頃、瀬谷はまた性懲りも無く、しかし今度は相談のつもりで集まったゲストハウスで三人で相談していた時の事、休憩と称したコーヒータイムにみたあるニュースに目を留めた。ナレーターは淡々として無表情だった。
「はい、では本日最新の今成市ライブニュースです。先日からの少女失踪現場で身元不明の遺体が見つかったとの事で現在警察が調査していると関係者が明かしました。話によると、近くに落ちていた遺留品から今成市立中学三年の春風美兎さん(15)と判明しました。彼女の遺留品と落とした遺留品に一致する情報があったと。では次のニュースです。一週間程前から今成市内で大量発生していたカラスの件ですが、市民数人が怪我をした為に駆除対象とされ数日前から本格的に駆除が始まっていたらしいのですが、今になって中止との話が。なんでも、駆除に当たった作業員から複数人の死亡者が」