皆に聴こえないよう玉座の傍でつぶやいた呂丞相に、詠帝は静かに微笑んだ。
「すべて彼らが活躍してくれたおかげだ。朕は、座していただけだよ」
 審理は終了した。詠帝は玉座から立ち上がり、結蘭たちのもとへ赴く。
「皆、御苦労であった。特に黒狼校尉……。どうかこれからも軍府に在籍して、そなたの力を発揮してほしい。あらゆることに便宜を図ろう。それが儀国からの、そなたに対する償いと思ってほしい」
「もったいないお言葉にございます」
 黒狼は膝をつき、頭を垂れた。
 彼の過去が少なからず報われて、結蘭は感慨に胸を熱くした。黒狼と共に、詠帝に礼を執る。
「姉上もよく頑張ってくれた。金色の蝶が永寧宮から飛び立つ奇跡を、朕も見届けた。姉上の力がなくば事件は解決できなかっただろう」
「ありがとう。あの蝶は伝説の金色蝶で、私はずっと話をしたいと思っていたの」
 金色蝶はとても美しく、そして凜々しい存在だった。
 幼い頃からの夢が叶えられた。
 そして、事件も無事に解決できた。
 それは結蘭に特別な力があったからではない。
 黒狼が、傍にいて力を貸してくれたおかげなのだ。
「ありがとう。黒狼のおかげよ」
 感謝を告げると、黒狼は瞬きをひとつして結蘭の瞳を見返した。
「俺はなにも。結蘭が、頑張った結果だろう」
 微笑みが殿に広がる。
 優しい春風が、そっと皆の衣を撫でていった。