「まあ、狭いけど入ってー。」

福岡大学近くの年季の入ったアパートの1室に先輩達の拠点はあった。部屋はワンルームで学生の一人暮らしには十分だろう広さ、ボロいなりに綺麗にされている。blasting crewの倉庫を見てしまうとここは…

「まあ、家みたいで居心地は悪く無いでしょ?」

「確かにそうっすけど。てか、そろそろ聞いても良いですか?先輩達が今していること。」

「そうねえ、俺達は早良と城南エリアを制圧しているmellowsってチーム。そのボスが俺って訳よ、ちなみに和希さんは各界隈への交渉人。」

「え、えぇ…つまりblasting crewとか他の組織と争ってたということですか。」

「そういうこと、でも俺らはあいつらと違って規模は小さいし力もねえし地道にやっていくしかないんよねー。だから情報収集は完璧に行う。」

先輩が詳しいだけでなく、実際に関わっていた事には衝撃だった。先輩の部屋に大量にあったファイルはこの為だろう、早速デスク上で和希さんはさっき麗花が撮った写真のチェックをしていた。

「じゃあ、先輩は前から恭弥と采香が組織にいたのは知っていたんですか?」

ようやく麗花も気持ちが落ち着いたらしく声を上げてきた。

「知ってたよ、でも黙ってた。出来るだけ俺達の居る世界に近づけさせたくなかったしね。まあ、今回の潜入でも2人共blasting crewに顔までは見られてないから大丈夫だろうよ、何かあったらうちのメンツをセキュリティに付ける。」

「いや、そうじゃなくて!!あの2人を引き離そうとかそういう考えはなかったんですか!!」

麗花がさらに声を上げる。無理もない、勢いで組織の拠点に行き、完全に悪側になった友人の姿を目撃してしまったのだから。

「麗花、ちょっと落ち着けって。」

「無理だよ、あいつらは皆ファミリーだ。何かあった時全員がお互いに助け合う。それに、あの2人が決めた事に口を出せる立場でも無いしな。」

無理に引き剥がそうとして反感を買うのも怖いし、正しい判断だろう。麗花も冷静になり納得しついたようだった。

「やるなら、blasting crewを潰すかやね。」

「blasting crewを潰すって…博多で1番強いんでしょ?無理だよそんなの。」

「そうだ悠斗、俺の傘下組織のボスになるか?」

「えっえっ、俺がですか?いやいや喧嘩強いわけでもないし無理っすよ!いやいやいや!」

悠斗は無茶言うなと慌てふためくが先輩は話を続ける。

「やり方はいくらでもある。ただ喧嘩が強いだけの世界じゃないぜ?どれだけ状況を判断して行動出来るかがボスには問われる。藤永みたいにな。」

「でも、本当にこの世界に自分が飛び込んで良いものですか?犯罪とかそういう…」

間違いなく日常生活は送れなくなる。

「そこはまあ、ね…ちなみにだけど俺の目的は福岡で1番になることじゃないよ、この戦いを全て終わらせること。ダラダラ続けていても誰のプラスにもならんし。早く争いを終わらせて福岡の街を元に戻す。悠斗にはその手伝いをして欲しい、もちろんあの2人を辞めさせることもね。」

和希さんも写真を眺めながら大きく頷いていた。

「そうだ麗花ちゃん、悠斗のチームに入ってサポートしてあげたらどうだ?」

「仕事があるのに裏でこんなことしてるってバレたらまずいし…私も気持ちは一緒ですよ、なんとかしたい…でも…」

麗花は真剣に悩んでいた。友人と仕事を天秤にかけることなんて普段ならあり得ないが、裏社会となると話は違う。

「そもそもまだ俺がチームに入るって決まったわけじゃないし!!」

「って言いながらも悠斗は決めとろ?」

拠点に着いた時も2人をなんとか連れ出せないかとは考えていた。今はその事しか頭に無い。何かを変えなければ変わらない、行動に起こすことが大事なんだと自分に言い聞かせた。

「俺、やります。出来ないかどうかなんて、やらなきゃわからない。」

「よし言った!決まりだ!明日の夜俺らも集会をするから行こうぜ、そこで他のメンバーとか色々詳しく話そう。」

「いいの?本当に。私は、もう少し考えるけど…」

「麗花は心配すんな。その代わり、今までの借りを返すつもりで勉強を教えてくれ。」

「はあ?それは別よ別!」

そんな悠斗と麗花のやり取りを2人はニヤつきながら見てくる。恭弥と采香を組織から引き離し、ついでに汚れかかった福岡を元に戻す。いいじゃないか、自分を試してみるには良いタイミングだ、と悠斗は思った。