朝4時の親不孝通り、飲み屋やクラブが多い地域といえ平日ということもあり静かだ。とはいえ酔い潰れた大人が座り込んでいたり、こんなところ長居するには気分が最悪だ。早く帰って仮眠だけでも取らなければ4時間後から始まる朝課外がキツい。
「悠斗、親不孝エリアを抑えてもそう保たんかろ?」
「それで良い、別に今回の目的は抑えることじゃない。」
「え、じゃあ今回の作戦なんなんすかー。」
周りから落胆の声が上がる。連日の襲撃に疲れ果てて愚痴を返す気力なんて殆ど無い、今日の放課後のミーティングまで思い出さないようにしよう。こんな姿じゃタクシーを借りることも出来ない、人目につかないよう路地裏を巡りながら家へ向かう。これは過程だ、目的を果たす為ならなんだってやるさ。
悠斗がこの道に踏み入れたのは、高校1年の時からだった。
2学期初日、夏休み毎日課外授業を受けていたこともあり、周囲の大きな変化も無く始まった。いや、一つだけあった。芸能活動による仕事の都合で課外を休んでいた宮前麗花が2ヶ月振りに顔を出していた。
夏課外を休んでいた分大量に課題が出されていたらしく、トートバッグにノートが敷き詰められている。こんなに課題をするぐらいなら課外に出た方がマシだと思いつつ眺めているとニヤけながら麗花が悠斗の席まで近づいてきた。
「久しぶりじゃん悠斗!今日からまた頼むね!」
バシバシ叩きながら話しかけてくる、痛い
「はいはい。2学期はもっと学校に来いよ、全教科勉強教えるのも大変なんだから。予習ぐらいやってくれたら助かるんだけど。」
中学時代から芸能活動をしている麗花に、仕事で受けられなかった授業は全て悠斗が教えている。人に教えられるだけあって成績は程々だった。
「んんんんん、私は仕事があるから!!足りないとこは補い合おうよー。」
普段画面の向こう側で見せる笑顔を振る舞いながら強請ってくる、悠人にとっては見慣れた物に冷たくあしらう。
「俺は何も貰ってないんだけどな。ちょっとぐらい感謝だけでもして良いんじゃないのか?」
「はいはいはいはーい。」
あしらわれたことに気が触ったのか話を聞くのをやめてスマホを弄り出した、暫く放置していると麗花が周りを確認してから急に小声で話を切り出してきた。
「悠斗、この前仕事の時にロケ先の西新で撮った写真なんだけどさ、これ見てみて。」
他の人に写真が覗かれないよう接近してスマホを見せてきた。こっそり見せてくれたのは西新商店街で麗花が雑貨屋の店主と写っていたものだった。
「奥にいる2人が着てるのって、blasting crewのジャケットじゃね?おいおい、こんなのテレビに映って大丈夫なのかよ。」
写っていたのはblasting crewのメンバー、博多・東エリアを張っているチームだ、この市の人間なら大抵は知っている。時代錯誤な感じはするが所謂カラーギャングに似た物。区域内で全員同じパーカーを着ているメンバーが屯っているのを見かけるが、基本的に自分のエリア外でジャケットを着ることは無い。他のチームのエリアで自分のチームのジャケットを着るということは、そのエリアの人間に対して敵意があるということ。そんな奴らがテレビに映っていたら大問題だろう。
「そうそう、テレビでは上手くカットするらしいんだけどね。それはそうなんだけど!よーく見て、この2人。恭弥と釆香よ、顔覚えてるでしょ?」
悠斗と麗花が小学生の頃から仲が良かった2人の友人が、blasting crewのジャケットを着てそこにいた。
「確かにあの2人だ、よく気付いたな。」
「店に入ってさ、見かけた顔だなーって思ったのよ。こっち見てなかったし気付いていないフリしながら撮ったの!やるでしょ私。」
テレビのロケなら彼等が麗花の存在に気付いていない筈はないだろう。
「写真を撮ったのはよくやったな…けど何であの2人が?」
当時学校は荒れ気味ではあった。しかし2人は真面目で、学内のヤンキーに関わるようなことも無かったはず。市内トップの進学校に進んだことまでは覚えている。しかし卒業後は一度も会っていない、高校に入って何か変わったのだろうか。
「私こそ知りたいよ、信じられなくない?」
「信じられないな、だからといって何も出来ないだろ。」
悠斗は動揺を気付かれないよう話を流そうとしていた。気になりはするが一般人が関わって良い世界では無いからだ。
「そ、そうね。一応報告だけ。」
2人を辞めさせたいから協力して欲しい、というのが麗花の本音だろう。本当の願いは口に出さない癖に悠斗は気付いていた。
「2人を探し出して、問い詰めてみるか?」
「え?いやそれは…出来るかもだけどblasting crewに反感買って周りにやられたら怖くない?それに私もこの仕事が続けられなくなるかもしれない…だって裏社会と繋がってるって噂もあるじゃん」
麗花の言うことは正しい。相手にするにはリスクが高すぎる。あの手の人間には関わらないのが1番だが状況が状況だ。悠斗は思い出した、中学時代の先輩でその手の話題に詳しい人がいる。あの人に聞けば出来る事が分かるもしれない。
「麗花、今日仕事あるか?」
「いや無いけど、何かするの?」
「中学の時さ、山城先輩っていたろ?あの人に聞いたらblasting crewの事が詳しくわかるかもしれない。」
「だいぶ会ってないと思うけど、連絡取れるの?」
「わからないけど、あの人なら家に押し掛けても許してくれるだろ。」
無理なことは分かっているが、麗花の力になりたかった。
「適当だなぁ、いいよ。学校終わったら行きましょ。」
はぁ、とため息をつきながら麗花は返事をする。そう言いながらも喜んでいるのはわかる。放課後の予定は決まった。
「悠斗、親不孝エリアを抑えてもそう保たんかろ?」
「それで良い、別に今回の目的は抑えることじゃない。」
「え、じゃあ今回の作戦なんなんすかー。」
周りから落胆の声が上がる。連日の襲撃に疲れ果てて愚痴を返す気力なんて殆ど無い、今日の放課後のミーティングまで思い出さないようにしよう。こんな姿じゃタクシーを借りることも出来ない、人目につかないよう路地裏を巡りながら家へ向かう。これは過程だ、目的を果たす為ならなんだってやるさ。
悠斗がこの道に踏み入れたのは、高校1年の時からだった。
2学期初日、夏休み毎日課外授業を受けていたこともあり、周囲の大きな変化も無く始まった。いや、一つだけあった。芸能活動による仕事の都合で課外を休んでいた宮前麗花が2ヶ月振りに顔を出していた。
夏課外を休んでいた分大量に課題が出されていたらしく、トートバッグにノートが敷き詰められている。こんなに課題をするぐらいなら課外に出た方がマシだと思いつつ眺めているとニヤけながら麗花が悠斗の席まで近づいてきた。
「久しぶりじゃん悠斗!今日からまた頼むね!」
バシバシ叩きながら話しかけてくる、痛い
「はいはい。2学期はもっと学校に来いよ、全教科勉強教えるのも大変なんだから。予習ぐらいやってくれたら助かるんだけど。」
中学時代から芸能活動をしている麗花に、仕事で受けられなかった授業は全て悠斗が教えている。人に教えられるだけあって成績は程々だった。
「んんんんん、私は仕事があるから!!足りないとこは補い合おうよー。」
普段画面の向こう側で見せる笑顔を振る舞いながら強請ってくる、悠人にとっては見慣れた物に冷たくあしらう。
「俺は何も貰ってないんだけどな。ちょっとぐらい感謝だけでもして良いんじゃないのか?」
「はいはいはいはーい。」
あしらわれたことに気が触ったのか話を聞くのをやめてスマホを弄り出した、暫く放置していると麗花が周りを確認してから急に小声で話を切り出してきた。
「悠斗、この前仕事の時にロケ先の西新で撮った写真なんだけどさ、これ見てみて。」
他の人に写真が覗かれないよう接近してスマホを見せてきた。こっそり見せてくれたのは西新商店街で麗花が雑貨屋の店主と写っていたものだった。
「奥にいる2人が着てるのって、blasting crewのジャケットじゃね?おいおい、こんなのテレビに映って大丈夫なのかよ。」
写っていたのはblasting crewのメンバー、博多・東エリアを張っているチームだ、この市の人間なら大抵は知っている。時代錯誤な感じはするが所謂カラーギャングに似た物。区域内で全員同じパーカーを着ているメンバーが屯っているのを見かけるが、基本的に自分のエリア外でジャケットを着ることは無い。他のチームのエリアで自分のチームのジャケットを着るということは、そのエリアの人間に対して敵意があるということ。そんな奴らがテレビに映っていたら大問題だろう。
「そうそう、テレビでは上手くカットするらしいんだけどね。それはそうなんだけど!よーく見て、この2人。恭弥と釆香よ、顔覚えてるでしょ?」
悠斗と麗花が小学生の頃から仲が良かった2人の友人が、blasting crewのジャケットを着てそこにいた。
「確かにあの2人だ、よく気付いたな。」
「店に入ってさ、見かけた顔だなーって思ったのよ。こっち見てなかったし気付いていないフリしながら撮ったの!やるでしょ私。」
テレビのロケなら彼等が麗花の存在に気付いていない筈はないだろう。
「写真を撮ったのはよくやったな…けど何であの2人が?」
当時学校は荒れ気味ではあった。しかし2人は真面目で、学内のヤンキーに関わるようなことも無かったはず。市内トップの進学校に進んだことまでは覚えている。しかし卒業後は一度も会っていない、高校に入って何か変わったのだろうか。
「私こそ知りたいよ、信じられなくない?」
「信じられないな、だからといって何も出来ないだろ。」
悠斗は動揺を気付かれないよう話を流そうとしていた。気になりはするが一般人が関わって良い世界では無いからだ。
「そ、そうね。一応報告だけ。」
2人を辞めさせたいから協力して欲しい、というのが麗花の本音だろう。本当の願いは口に出さない癖に悠斗は気付いていた。
「2人を探し出して、問い詰めてみるか?」
「え?いやそれは…出来るかもだけどblasting crewに反感買って周りにやられたら怖くない?それに私もこの仕事が続けられなくなるかもしれない…だって裏社会と繋がってるって噂もあるじゃん」
麗花の言うことは正しい。相手にするにはリスクが高すぎる。あの手の人間には関わらないのが1番だが状況が状況だ。悠斗は思い出した、中学時代の先輩でその手の話題に詳しい人がいる。あの人に聞けば出来る事が分かるもしれない。
「麗花、今日仕事あるか?」
「いや無いけど、何かするの?」
「中学の時さ、山城先輩っていたろ?あの人に聞いたらblasting crewの事が詳しくわかるかもしれない。」
「だいぶ会ってないと思うけど、連絡取れるの?」
「わからないけど、あの人なら家に押し掛けても許してくれるだろ。」
無理なことは分かっているが、麗花の力になりたかった。
「適当だなぁ、いいよ。学校終わったら行きましょ。」
はぁ、とため息をつきながら麗花は返事をする。そう言いながらも喜んでいるのはわかる。放課後の予定は決まった。