なにが、可愛いだ。
なにが、好きだ。
そんなちっぽけな言葉なんて、胸を貫くどころか皮膚すらも通り抜けない。上っ面だけの軽い言葉だ。
バカバカしい……そう思って、文庫本へ集中しようと文字を目で追っていくが、
「でもよー、あんだけ可愛ければ一度は付き合ったことあるはずだろ。どういうやつがタイプなんだろうなぁ」
「お前聞いてみろよ」
「はぁ? やだっつーの!」
嫌でも耳に流れ込む会話に、苛立ちが募る。
文庫本に集中しろよ、そう心の中で自分にツッコミをするが、男子の会話を耳が拾う。
小さな音でも拾ってしまうらしい。そんな僕の耳は、性能が良いマイクか何かだろうか。
そもそもどうしてこんなに苛立つんだ?
周りのやつが羨ましいからなのか?
だからこんなに苛立つのか?
──いや、違う。
『嫌いな人ほど視界に入ってしまう。意識してしまう』
前に、文庫本か何かで読んだことがある。
言葉の通り、嫌いな人ほど人は意識してしまう生き物らしい。
だから僕は、“転校生である三日月”さんに苛立っているのだと知った。
でも、なぜ彼女に苛立つのか。
それも簡単な問題で。
僕に友達がいないと知っていたからなのか、暗いと噂されていたからなのかは分からなかったが、どちらにせよ、彼女のただの気まぐれで声をかけられたのに腹が立っている。