それは、困る。

 もう追究はしないし、うやむやで曖昧なままでいいけど、つまり状況はこれまで通りを保ちたい。それが雨宮の通常運転なら、俺もそれを何も言わず受け入れる。

 そこに雨宮の何か特別な意図があろうが無かろうが、もう、どっちでもいい。

 というようなことをもちろん馬鹿正直に言えるわけもなく、「てかノートは?写し終わった?」と俺は話をはぐらかした。

「あと3行!すぐ終わる!」

 再びシャーペンを手に取ったその横顔を眺めながら、どう足掻いても永遠に敵わなさそうだな、と両手を上げたくなった。

 追究という名の銃はとっくに下ろして、それは足元に転がっている。どうせならいっそのこと、どこか遠くの見えない所へ蹴飛ばしてしまおうか。

 口の中では、ゆっくり、ゆっくり、苺味の飴玉が溶け出していく。この香りにも、到底敵わないだろう。

 でも今は、それでいいんだ。



 【完】