なんだか話の方向性が俺の勝手な想像とはだいぶずれていることに、早々に気付き始めた。

 もちろんさっきも思ったことだけれど、雨宮が人気(ひとけ)のない放課後の教室で、改まった態度で切り出そうとしているその話の内容なんて、実際それを明かされるまで俺には分からない。

 そしてまた、ああでもないこうでもないと、一体俺は何をこんなに必死になっているんだろうとも思う。教室はすっかり静まり返っているというのに、俺の心の中はやたら騒がしかった。

「森下さ、書道の授業中、いっつも半紙に落書きしかしてないでしょ?」

「…はあ」

「でも、ふざけないでちゃんと書けば絶対上手いと思うの。だって普段のノートの字がこれだけ見やすいんだよ?なのにさ、半紙と筆と墨を与えられたら落書きするとか、今時小学生でもそんなことしないんじゃないの?」

「はあ」

「書道室だと私、通路を挟んで森下の斜め後ろの席なんだけど、手元がよく見えるの。昨日もさ、下手くそなトトロ描いてたね」

「はあ」

「だからね。私からの頼み事っていうのは、森下が書いた本気の毛筆も見たいなってこと。それを見られる日が来たら、私もしかしたら感動して泣いちゃうかも」

「はあ」