雨宮が手を止めて、じっと俺のほうを見た。勘弁してくれ、と今度こそ本当に降参したくなる。

 教室には、いつの間にか誰も居なくなっていた。俺と雨宮の、2人を除いて。

「…何?」

「…んー」

 こんな風に歯切れの悪い様子を雨宮が見せるのは、珍しかった。緊張感が、余計に加速する。

 雨宮が何を言おうとしているかなんて、その口から言葉が発せられるまでは全く分からない。俺には知り得ないことだ。だから勝手に想像なんかしちゃいけない。それなのに、その想像は意思を持って勝手に走り出す。

「え、何だよ気持ち悪いな」

「気持ち悪いって何、失礼な」

「はいはい。……で?」

「うん…まあ、言いたいことっていうか、頼み事なんだけど」

「頼み事…」

「もっと言うと、書道の授業のことなんだけど」

「書道の授業……?」