おもむろに席を立ち、俺らの陰口を言っているのは大体あの辺だろうな、とグラウンドにちらちらと姿を現し始めた野球部や陸上部を窓越しに見やる。

 どこか遠くから、金管楽器やら木管楽器やらが入り混じった音が聞こえてくる。

 俺と雨宮以外にも何となく教室に残って駄弁っているクラスメイトがいたけれど、だいぶ閑散としていた。

 周りを取り巻く空気の全てが、放課後のそれへと入れ替わっていた。

 余談だが、今せっせとノートを写している雨宮は帰宅部だ。

「あ、森下、ここ漢字間違えてる」

「え、どこ」

 机の上に広げられたノートを覗き込む。

 とその時、妙に馴染みのある匂いが、ふっと鼻の辺りを通り過ぎた。

 そのたった一瞬でもこうして分かってしまうくらい、はっきりと濃く、そして甘い。今自分の口の中にそれがあるわけでもないのに。

 参ったな、と少し途方に暮れたくなった。

「飴、舐めてる?」

「え?あー、うん」

 それは、苺の香りだった。