そのノートを使って目の前の背中を軽くつつく。「ひっ」と一瞬変な声を出し、顔を小さくしかめながら雨宮が振り向いた。

「ねえ…急にやめて?心臓に悪い」

「いやただのノートじゃん。刃物突きつけられたみたいな反応するなよ」

「背後からそういうことするのほんと良くないよ」

「案外ビビりなんだな」

 そういうことじゃなくてね、と目を細めながら雨宮は俺を睨んできたけれど、差し出されたノートを見てその表情をぱっと変えた。

「そうだそうだ、貸してってこないだ言ったもんね。さすが雨宮専属のノート係、何だかんだ言いつつ仕事はきっちりやるよね」

「何で微妙に上から目線なんだよ」

 という俺の言葉なんてまるで聞こえてないかのように雨宮は平然と受け流し、ノートをぱらぱらとめくりながら、「あー…これくらいの量なら今ささっと写しちゃおうかな」と呟いた。