すると暇そうにスマホをいじっていた隣の席の葉田(はだ)が、「あくびもため息も随分でかいな」とふいに話しかけてきた。

 上半身を机に預けたまま、顔だけ右に向ける。

「だから生理現象だっつーの…」

「さっき愛未にも同じこと言ってたな。でもいくら生理現象って言ってもある程度は自分でコントロールできるだろ」

 さらっと出てきた1つのワードに引っ掛かったけれど、「なぁ、さっきの授業のノート貸してほしいんだけど」とその引っ掛かりは一旦スルーした。

「あぁ、ちょっと待って」

 机の中に手を突っ込み、古文のノートを捜索するその姿をぼんやり眺めていたら「てか、雨宮のこと下の名前で呼んでるんだな」と自然に口走ってしまっていた。確かに一度はスルーしたはずなのに、結局その引っ掛かりを無視することはできなかった。

 内心焦ったけれど、「あー、俺あいつと中学同じでさ。人数がめちゃくちゃ少ない学校だったし、なんつーのかな…内輪感みたいなのが強くて、みんな割りと普通に下の名前で呼び捨てとか、あだ名とかだったんだよ」とあっけなく種明かしをされて、自分の中に生まれたおかしな焦りは最初から無かったことにしようと思った。