庭での乱闘から小半時、離れに隣接する部屋で、四郎と一八は、広綱(ひろつな)と名乗った男と向き合っていた。

「広綱殿は、妖術使いか」

 四郎が手にしているお茶も、一八が頬張っている菓子も、先刻ぺらぺらの紙人形が運んできたものだ。そういうものがお茶汲みをしている状況を、目の当たりにしても、二人は特に動じない。
 ばかりか

「紙人形には重そうじゃのぅ。大丈夫かえ」

 などと言ってのける二人を訝し気に眺めながら、広綱は自分の茶碗に口をつけた。

「陰陽の術を、多少使えるだけだ」

 ぶっきらぼうに答え、茶碗を置くと、二人を見据えて口火を切った。

「お前たちは何者だ。何故絵のことを知っている。何故結界が見えるのだ。妹のことを、知っているのか?」

「いきなりな質問攻めですな。まぁ無理もねぇ。先にも言いましたが、わっちらぁ賊じゃござんせん。こちらの旦那さんに妹御のことを相談されましてね。モノ見に来たら何故だか門前払い食らいまして。そんでまぁ、失礼ながら、ちょいと塀を飛び越えた次第……」

「手前、紫野は珠璃堂の四郎と申す。これは一八。盗賊まがいの非礼はお詫びいたしまする」

 築地塀の上とはがらりと口調を変え、四郎が広綱に頭を下げた。

「訪ねてきたのはおぬしらか。妙な気を嗅ぎ取ったので、帰すよう命じたのだ」

「ははぁ、なるほど」

 妙な気と言われても気分を害することもなく、一八は頷いた。