四郎のところにやって来た男の話はこうだった。

 件の竜雲図は、もともと屋敷の離れに飾ってあったもので、今まで特に何事もなかった。それが師走に入ったある日、絵に触れた娘が突然昏倒したという。
 そして目覚めてからしばらく、屋敷の中を這い回ったり、奇妙な行動を取るようになり、そのうち離れに閉じこもって出てこなくなったと。

「ふん。随分下等なもんが憑いたもんだねぇ」

 築地塀の上を睨んで、一八は毒づいた。
 四郎は九郎を伴い、六条にある男の屋敷を訪ねていた。だが何故か門前払いを食わされ、そのまま門は閉じられてしまったのだ。

「さて、どうしたもんか」

 さして困った風でもなく、四郎は築地塀沿いに、屋敷の裏に回った。

「ほ」

 屋敷の裏手、北寄りの一点で、四郎は足を止め、築地塀を見上げた。

「これはまた……」

「雑な結界でやんすな」

 一八も呆れたように呟いた。

「ここの一角だけ、気配も何も、すっこんと抜けてら。外界からの隠れ蓑にしちゃお粗末だねぇ。こうも綺麗にここだけ抜けてりゃ、ここにあると言ってるようなものだ」

 言いながら、ひょいと築地塀の上に飛び乗る。

「一八」

「大丈夫。ちょいと見てくるだけでさ」

 見上げる四郎に、にっと笑い、一八は屋敷の内側へと飛び降りた。